
懸垂(チンニング)は、自重トレーニングの中でも最も効果の高い上半身の種目の一つです。広背筋を中心に、背中全体と腕の筋肉をバランスよく鍛えることができます。
しかし、懸垂は自分の全体重を腕と背中の力で引き上げる種目のため、筋力が足りない段階では1回もできないことが珍しくありません。特に筋トレ初心者や女性にとっては、最初のハードルが非常に高い種目です。
この記事では、懸垂が1回もできない状態から、正しいフォームで複数回できるようになるまでの段階的な練習方法を詳しく解説します。
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懸垂で鍛えられる筋肉
メインターゲット:広背筋
懸垂で最も鍛えられるのが広背筋です。背中の大部分を占める大きな筋肉で、逆三角形の体を作るために欠かせない部位です。広背筋が発達すると、背中のシルエットが大きく変わります。
サブターゲット
- 大円筋:脇の下付近にある筋肉で、広背筋と連動して働きます
- 上腕二頭筋:いわゆる「力こぶ」の筋肉。肘を曲げる動作で使われます
- 僧帽筋下部:肩甲骨を下に引く動作で働きます
- 前腕の筋肉群:バーを握り続けることで握力も強化されます
懸垂一つで上半身の「引く系」の筋肉をほぼ全てカバーできるため、背中のトレーニングとしてこれ以上効率的な種目はないと言っても過言ではありません。
懸垂ができない主な原因
懸垂ができない原因はいくつか考えられます。自分に当てはまるものを把握して、効率的にアプローチしましょう。
筋力の不足
最も多い原因です。広背筋や上腕二頭筋の筋力が、自分の体重を引き上げるレベルに達していない状態です。これは段階的なトレーニングで十分に改善が見込めます。
体重が重い
同じ筋力でも、体重が重いほど懸垂の難易度は上がります。体脂肪を落とすことで、相対的に懸垂がしやすくなるケースもあります。
握力が弱い
バーを握り続ける握力が不足していると、背中の筋肉を十分に使い切る前にバーから手が離れてしまいます。
背中の筋肉をうまく使えていない
腕の力だけで体を引き上げようとして、背中の筋肉をうまく動員できていないというケースも多く見られます。背中の筋肉の「使い方」を覚えることが、懸垂上達の大きなポイントです。

懸垂ができるようになるための段階的練習メニュー
ここからが本題です。レベル1から順番にステップアップしていく方法を紹介します。
レベル1:デッドハング(ぶら下がり)
まずはバーにぶら下がることから始めましょう。握力と肩周りの安定性を鍛えられます。
デッドハングのやり方:
- バーを肩幅より少し広めに握る
- 足を床から離し、全体重をバーに預ける
- 肩をすくめず、肩甲骨を下げる意識を持つ
- 目標:30秒キープ × 3セット
30秒以上ぶら下がれるようになったら、次のレベルに進みましょう。
レベル2:斜め懸垂(インバーテッドロウ)
低いバーや、スミスマシンのバーを腰〜胸くらいの高さにセットして行う「斜めの懸垂」です。足が地面についているため、自重の一部しか負荷がかからず、通常の懸垂よりも大幅に難易度が下がります。
体を一直線に保ちながら、胸をバーに引き寄せるように体を引き上げます。背中の筋肉を使う感覚を掴むのに最適な練習です。足の位置をバーに近づけるほど難易度が下がり、遠ざけるほど難易度が上がります。
目標は10回 × 3セットをきれいなフォームでこなせるようになることです。
レベル3:ネガティブ懸垂(降りるだけ)
ネガティブ懸垂は、懸垂の「降りる部分」だけを行うトレーニングです。台やジャンプを使ってバーの上まで体を持ち上げた状態からスタートし、5〜10秒かけてゆっくりと体を下ろしていきます。
筋肉は「引き上げる動作(コンセントリック)」よりも「降ろす動作(エキセントリック)」のほうが大きな力を発揮できるため、まだ自力で体を引き上げられない段階でもネガティブ動作は行えるケースが多いです。
ネガティブ懸垂は筋肉へのダメージが大きいトレーニングです。最初は3〜5回 × 2〜3セットから始め、ひどい筋肉痛が出た場合は回復を優先しましょう。
レベル4:バンドアシスト懸垂
トレーニング用のゴムバンド(レジスタンスバンド)をバーに取り付け、足や膝をバンドに乗せて行う懸垂です。バンドの弾力が体を持ち上げる力を補助してくれるため、通常の懸垂よりも少ない筋力で行えます。
バンドは太さ(強度)によって補助力が異なります。最初は強い補助のバンドから始め、徐々に弱いバンドに変えていくことで段階的に負荷を上げられます。
目標は弱いバンドで8〜10回 × 3セットができるようになることです。
レベル5:通常の懸垂
ここまでの練習を積めば、自力で1回以上の懸垂ができるようになっているはずです。最初は1〜2回しかできなくても問題ありません。セット数を増やして総レップ数を稼ぎましょう。
例えば、1回しかできない場合は「1回 × 10セット」で合計10回をこなすという方法もあります。

懸垂の正しいフォーム
グリップの種類
プルアップ(順手):手の甲が自分に向く握り方。広背筋への刺激が強く、一般的な「懸垂」はこのグリップを指します。
チンアップ(逆手):手のひらが自分に向く握り方。上腕二頭筋の関与が増え、プルアップよりもやや簡単に感じる方が多いです。
初心者にはチンアップの方が取り組みやすいケースが多いため、最初はチンアップから始めるのも良い選択肢です。
正しいフォームのポイント
- 肩甲骨を下に引いてから肘を曲げる(まず肩甲骨を動かしてから腕を曲げるイメージ)
- 体を反らしすぎず、やや前傾した姿勢で引き上げる
- 顎がバーを超えるまで引き上げるのが1回の基準
- 下ろすときはコントロールしながらゆっくり
- 完全に腕が伸びきるところまで下ろす(可動域を確保する)
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懸垂の回数を増やすためのコツ
グリースザグルーブ法
自分の最大回数の50〜70%の回数を、1日に何度も行う方法です。例えば最大5回できるなら、1日に3回×5〜6セットを、セット間に十分な休息を取りながら行います。神経系の適応を促し、効率的に回数を伸ばせると言われています。
加重懸垂
10回以上できるようになったら、ディッピングベルトにプレートをつけて負荷を増やす「加重懸垂」に挑戦しましょう。加重で鍛えた後に自重に戻すと、驚くほど回数が伸びる場合があります。
補助種目の活用
ラットプルダウン、ダンベルロウ、ベントオーバーロウなどの補助種目で背中の筋力を底上げすることも有効です。
懸垂のトレーニング方法については、NSCA ジャパンの資料でも専門的な解説が掲載されています。また、自重トレーニング全般については日本スポーツ協会の情報も参考になります。

自宅でできる懸垂の環境づくり
ドア設置型の懸垂バー
ドア枠に引っ掛けるタイプの懸垂バーは、手軽に設置できて場所も取りません。価格も手頃なため、自宅トレーニングの入門にぴったりです。ただし、ドア枠の強度や耐荷重を必ず確認してから使用してください。
壁掛け型の懸垂バー
壁にビスで固定するタイプは、安定性が高くグリップの選択肢も多いのが魅力です。設置にはDIYの技術が多少必要ですが、一度取り付ければ長期間安心して使えます。
公園の鉄棒
近所の公園に鉄棒があれば、無料で懸垂の練習ができます。高さが合わない場合は、台を持参するなどの工夫が必要ですが、コストゼロで始められるのは大きなメリットです。
懸垂に関するQ&A
Q1. 懸垂ができるようになるまでどのくらいかかる?
個人差はありますが、段階的な練習を週3回のペースで続けた場合、1〜3ヶ月で1回目の懸垂ができるようになる方が多いです。体重や初期の筋力レベルによって変わるため、焦らず取り組みましょう。
Q2. 懸垂マシンのアシスト機能を使うのはあり?
ジムにあるアシスト付き懸垂マシンは非常に有効です。補助の重さを段階的に減らしていくことで、自然と懸垂に必要な筋力が身についていきます。
Q3. 反動を使って懸垂してもいい?
「キッピング」と呼ばれる反動を使った懸垂はクロスフィットなどで使われますが、筋力アップが目的なら反動なしの「ストリクト」なフォームで行うのが効果的です。まずはストリクトな懸垂をマスターしましょう。
Q4. 懸垂とラットプルダウン、どちらが効果的?
どちらも広背筋を鍛える種目ですが、懸垂の方が体幹の安定性も求められるため、総合的な筋力向上には懸垂が優れています。懸垂ができない段階では、ラットプルダウンで筋力をつけてから懸垂に移行するのが賢い方法です。
Q5. 女性でも懸垂はできるようになる?
もちろんできるようになります。女性は上半身の筋力が男性より低い傾向があるため、時間はかかるかもしれませんが、段階的な練習を積めば必ず到達できます。斜め懸垂やバンドアシストを積極的に活用しましょう。
Q6. 手のひらにマメができて痛いです
懸垂を続けていると手のひらにマメができることがあります。トレーニンググローブの使用や、マメができにくい握り方(指の付け根で握るのではなく、指の第二関節あたりで引っ掛けるように握る)を試してみてください。
まとめ
懸垂は確かに難しい種目ですが、段階的な練習を積めば必ずできるようになります。デッドハング → 斜め懸垂 → ネガティブ懸垂 → バンドアシスト懸垂 → 通常の懸垂という流れで、焦らずレベルアップしていきましょう。
最も大切なのは「続けること」です。週に2〜3回の練習を数ヶ月続ければ、かならず成果は現れます。初めての1回ができたときの喜びは格別なので、ぜひその瞬間を目指して頑張ってください。
背中のトレーニング全般について詳しく知りたい方は、JATI(日本トレーニング指導者協会)の情報も参考になります。

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